引用(4)

例の文部大臣は、どうしたら祖先崇拝の風を維持することができるかといふ問題を教育屋仲間へ提出したさうである、おれが教育屋の小僧であつたならばかう答へる、最もよい方法は、親よりは子、子よりは孫と次第劣りに馬鹿にしてゆくことである、先祖になるほどえらい人であるならば、誰でも先祖を尊敬するに違ひない、これができぬならば第二の策がある、それは世の中をひつくりかへして、封建制度、世襲制度の社会に後もどりをさせることである、「親のおかげ、先祖のおかげで食べていかれる」といふ考を起させるにはこれが一番である、さうして、さういふ考があれば屹度、祖先を尊敬する、もし、また、以上の二策ができない相談だとすれば最後に一策がある、それは、個人の人格を立派にすることである、立派な人格をもつて居る人間ならば、隣人から尊敬をうける如くに子孫からも尊敬をうけるに違ひない、子孫から尊敬をうけるに値する人間を造ることが、祖先崇拝を子孫に教ゆる最良の方法である、但し此の最良の方法は、忠孝屋にはお門ちがひの建策であらう。



津田左右吉、1911年の日記より。


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