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引用(18)

私は、一つのはなしを彼にしたかったが、結局はしなかった。第三帝国の時代に、ゲッベルスの新聞『フェルキッシャー・ベオバハター』を電車のなかで読んでいたユダヤ人のはなしというのがそれである。ユダヤ人の隣に坐っていた知り合いのユダヤ人でない男が彼につぎのようにきいた。「どうして『ベオバハター』なんか読むんですか」「ごらんの通り、私は工場で働いています、家に帰れば、女房はがみがみ小言をいうし、子供は病気だし、食べ物を買う金もない有様です。工場から帰宅途中の私は、『ルーマニアでユダヤ人組織的に虐殺さる』、『ポーランドでユダヤ人虐殺さる』、『反ユダヤ人新法成立』なんてことがのっているユダヤ人の新聞を読むべきでしょうか。そうじゃないです。電車のなかの三〇分は、『世界資本主義者ユダヤ人』、『ユダヤ人ロシアを支配』、『ユダヤ人イギリスを支配』なんて書いてある『ベオバハター』を読むんです。新聞の主はなんです。一日のうち三〇分だけ、私は別の人間になるんです。私にかまわないでください」


マイヤー『彼らは自由だと思っていた――元ナチ党員十人の思想と行動』
(田中浩・金井和子訳)


※原文にある強調の傍点は太字に直した。




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